実は大マジ・スパイアクション!?


昨今成立しにくい職業(?)として、私は先に怪盗の事を書いた。実は21世紀に向け
滅びつつある代表的職業がもう一つあって、それは“エスピオナージュ”すなわちス
パイである。共産主義イデオロギーが結局はスターリンのアンチ自由主義でしかない
と気づいた民衆パワーによりソビエトが崩壊したものだから、東西冷戦も必然的に終
わってしまい、どこの国のスパイの多くは失業を余儀なくされてしまった。その結果
ジェームズ・ボンドはケチな麻薬王や武器商人をシメまくり、フェルプス君は仲間を
裏切り、CIAやモサドではローニンが続出する始末、まったくトホホな時代になっ
たものである。

その点、1960年代から70年代にかけてはスパイ天国であった。ジェームズ・ボ
ンドは勿論、ナポレオン・ソロ、チャールズ・バイン、それいけスマート(あ、これ
は違うか)等々、東西冷戦に咲く徒花として、どのスパイもボリシェヴィキの使徒を
血祭りにあげ、敵味方問わず女をコマしまくっていたのだ。現実の世界でも、U2(
ロックバンドではない)撃墜やプロフューモ事件など諜報合戦が花盛り、そうスパイ
=セックス&ドラッグ時代のトリックスターだったのだ。

さて、昨年公開された『オースチン・パワーズ』は、そんな”正統派”(?)なスパ
イを現代に蘇えらせたマイク・マイヤーズの快作である。これが予想外(?)にヒッ
トしたおかげで、今回『デラックス』(ちなみに原題の“The spy who shagged
me"は、007第10作の”The spy who loved
me"のもじり、“私を○○したスパイ”)が公開されたという事は皆さんもご存知で
あろう。(もっとも続編の製作は最初から予定されていた様だが)
さて、先のレビューで、私は『オースチン・パワーズ』を迂闊にも“007パロディー
のおバカ映画”と書いてしまった。またこの映画を観た人観てない人の多くもそう信
じている様である。しかし私は『デラックス』を観終わった今、それが大きな間違い
であった事に気が付いた。この2作はマイク・マイヤーズが007の作品世界の再構築に
大マジメに取り組んだ、あまりにも正統的なスパイ映画であったのだ。これを読んで
る皆さん、ウソだと思うでしょ!?でもホントの事なんだからしょうがない。

そもそもパロディーとは何か?本来パロディーとはある作品なり寓意を批判・嘲笑・
愚弄・揶揄するために用いられる手段である。従って優れたパロディーにはオリジナ
ルを徹頭徹尾バカにしているもの(やっぱ『アタック・オブ・ザ・キラートマト』か
な?)が多い。しかし『オースチン』には007に対するマイヤーズの大いなる嫉妬(
言い換えればコンプレックスが)がそこかしこに現れているのだ。彼は007映画のセ
オリー(MやQやマネー・ペニーの存在、敵方の女をコマしての情報収集、敵地に乗
り込んでの一大決戦、そして最後はお目当ての美女をコマす)を忠実にトレースする
事により、自己と007を同一視する事に成功した。このいわば偏執狂的な作業は、オ
リジナルへの(歪んだ)愛なしにはあり得ない。従って私には『オースチン』をパロ
ディーと呼ぶ事は出来ない。(余談だが、メル・ブルックスの映画も、あまりにもオ
リジナルへの愛が強過ぎてパロディーになり得なかった。『新サイコ』を見よ!!)

マイヤーズが007に抱いたコンプレックスの正体とは何か、それはすなわち『所かま
わず女をコマしまくる』事である。007ことジェームズ・ボンドというキャラクター
は、信念を持たずスパイ稼業をしつつ、気に入った女は敵味方かまわずモノにし、そ
のためには後先考えずに行動するとんでもないリビドー爆発ノンポリ野郎(特にロジ
ャー・ムーア版)である。マイヤーズは子供の頃父親と一緒によく007を観に行ったら
しいが、任務にかこつけて世界中の女をコマしまくるボンドの姿は、幼少の彼の未発
達なリビドーを直撃し、大いなるトラウマを残したはずである。やがて彼は成長して
『サタデーナイト・ライヴ』で有名になり、『ウェインズ・ワールド』でカルト的人
気を獲得、一応名声(?)を得た彼の次の目標が、トラウマ癒しのため今こそ自身の
リビドーの源泉たる007への変身である事は言うまでもない。しかしここで一つの問
題があった。『ウェインズ・ワールド』を観た人なら気が付いているはずだが、マイ
ヤーズはチビで小太り、オマケに短足である。そんな彼がマジで007を演じれば、そ
れこそ本当のギャグになってしまう危険があった。そこで得意のおバカ映画のスタイ
ルを踏襲しながらも、本来の目的である美女のコマシを実現することにしたのである
。敵役ドクター・イーブル、『デラックス』では殺し屋ファット・バスタードも同時
に演じたのは、出来る限り自分の手で彼の創造した空間(『ウェインズ・ワールド』
に習えば『オーズチン・ワールド』ですな)をより統一性のとれた世界にするための
手段なのだ。まあナルシチズムの変形といえなくもないですな。舞台が1960年代
を中心に展開するのも、彼のトラウマが形成されたのがその時期だったからと推測さ
れる。

まあだから何なんだといわれそうなので、一応マトモ(?)なレビューも....

いやあ、おバカ度150%増量中、という感じで大いに笑わせていただきました。
スター・ウォーズからアルマゲドンと続く色々な映画のパロディーの連続、マイヤー
ズがすっぽんぽんで踊りまくる痛快なオープニング、ドクター・イーブルのナンセン
スな世界征服計画などなど、でも私にとっての一番のギャグは、悪の組織の資金源が
“スターバックス・コーヒー”だったという部分だったんですけどね。
ヒロインのフェリシティ・シャグウェル(“エッチがお上手”の意味)ことヘザー・
グラハムのキュートな事、大きな眼、カールしたブロンド、バービー人形みたいなプ
ロポーション、いやあ、このコ人気出まっせ!今後要注目です。
そうそう、セリフ中にギャグや隠語が連発されてますので、ガイドブック(パンフレ
ットではちと役不足)をご持参の上で観られるとよいでしょう。

ところで、やっぱ第3作も作るのかなあ。タイトルを“Man with the golden
ball”なんてしてくれるとウレシイんだけどなあ。(爆)

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